【書評】イメージ喚起力に満ちた比喩表現が多い
こちらは、同じプロジェクトでお仕事している訳ではないのですが、白川の過去の本を読んでくださっていた方からいただいた書評です。
「イメージ喚起力に満ちた比喩表現が多い」とありますが、よくぞ言ってくださいました!(笑)
ITは目に見えないので、部外者から見ると、とにかく分かりにくい。これがエンジニアに丸投げしてしまうことの原因にもなっています。
せめてイメージだけは持ち、きちんとエンジニアと会話できるように、と思って、色々な比喩を散りばめました。
Mさん、ありがとうございました!
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なぜ日本には、アマゾンのようにITの力をサービスの革新や高度化に結びつけて成功している企業が少ないのだろう?という疑問を、疑問のままにしてもやもやしていた。
この本を読んで、霧が晴れ、その答えが腹の底にすっと落ちたような気がする。
IT構築がうまくいかないのは、ビジョン、リーダーシップ、マネージメント、コミュニケーションの問題があるから・・・。
これらは、経営力の問題そのものではないか!
「ITを設計・開発する」ということが、「ビジネスを作りこむ」ことと同義に近い密接不可分の関係にならざるを得ない場合が多い現在、経営力の問題がIT構築のみならず、ビジネス自体の不調にも結びついており、それが日本の停滞をもたらしている宿痾であることを著者が意識していることは想像に難くない。
親しみやすく穏やかな文章の端々からも、このことに対する著者の切歯扼腕が語られずして伝わってくる、というのは投影か。
ただ、この本の類書と異なる真価は、根深い問題を腑分けすることにとどまらず、急所を突いたノウハウを惜しみなく提示している点にこそ存する。
例えば、コスト削減のコツ、投資計画の立案についての作戦、PLの育て方などについて、今まで自分でできるとも思っていなかったことができるような気がして、と勇気が湧いてくる。これほどに手の内を明かして、著者のコンサルタントとしてのビジネスは大丈夫なのか、と余計なことを心配したくもなる。
しかし、冷静に具体的に考えてみると、それは杞憂だとわかる。
具体的な手法は理解できても、それを実行する人間に必要な知的体力、誠実さ、忍耐強さ、信念、楽観性及びインスピレーションが、読者やその属する組織に備わっているかどうかは、全くの別問題だからだ。これらの備わっていない組織は、著者のようなコンサルタントの助けを借りる必要がある。
ただ、逆に言えば、これらが備わっている組織は、本書を読んで自分たちで
動き出せるかもしれない。
なお、イメージ喚起力に満ちた比喩表現が多いのも本書の特徴だ。
(例)
・「プラント型IT」
⇒業務情報がその中を流れていくことで業務が進むようなIT
・「効果をしゃぶりつくす」
⇒プロジェクトがゴールを迎える際の、もう一押しの改善
・「マイクロバスで家族旅行に行く」
⇒ITエンジニアがトラブルを恐れて高スペックのハードウェアを求める傾向
・「熱海の旅館化したIT」
⇒年月を経て、当初のアーキテクチャーを逸脱した改修が重ねられたIT
直感的に理解できる表現たち。
著者は遊び心とユーモアの豊かな人なのではないか。